神奈川新聞隔週連載・岡田監督のコラム「ふっと ライフ」第四回

・忘れかけた「ベース」
 リーグ戦4連勝の後、ヤマザキナビスコカップを含めても1勝1分け2敗と、なかなか勝てなくなってきていた。そして、そういうときに限って、弱り目にたたり目と言わんばかりに主力にけが人が続出してくるのである。
 今年は、シーズン前から本当に満足のいくいい準備ができ、優勝候補に挙げられ、選手たちも自信を持っていたと思う。いざ開幕してみると4連勝。試合の内容も、ゲームを支配し2点以上の得点を挙げての勝利であった。特に2戦目の鹿島戦は素晴らしいゲームで、優勝候補のチームにアウエーで3-0と快勝した。
 今考えると、その後ぐらいから、少しずつ私が「ベース」と呼んでいるチームにとって大切なものを失いはじめていた。それでも、マルケスマグロンに象徴されるような技術の高さで、結果が出ていたし、そこそこの試合ができていたので気付かなかった。
 「ベース」とは、ひたむきに戦う姿勢であり、チームが一丸となることであり、勝つことへの執着心であり、ミスやリスクを恐れない積極的なプレーである。つまり、世界中の強豪といわれるチームが例外なく持っている「ウイニングマインド」。どんな相手にも「おごることなく、恐れることなく、あきらめることなく」最後まで勝つために厳しい戦いをする。そして、どんな状況でも一瞬たりとも甘さやスキを見せないことである。
 この「ベース」が不安定だと、その上にどんなに高い戦術というビルを建てようが、どれだけ素晴らしい技術の塔を建てようが倒れてしまう。
 12日のナビスコカップのFC東京戦は、けがで主力を欠いて戦わなければならなかった。だが、ある意味でわれわれが忘れかけていた「ベース」を思い出すためのチャンスを与えてもらったと感じていた。
 そして、選手たちは、そのチャンスを逃すことなく素晴らしいファイティングスピリットを持って、お互いを信頼し合い、助け合い、最高の試合をしてくれた。また選手たちに助けてもらったと思った。
 まず、「ベース」をしっかりと安定させ、その上に立派なマリノスの塔を建てるのは、そんなに簡単ではないし、まだまだ苦しい戦いが続くことは間違いない。
 しかし、このマリノスの選手たちは必ず乗り越えてくれることを、私は知っている。
神奈川新聞より)