神奈川新聞隔週連載・岡田監督のコラム「ふっと ライフ」第三回

・スポーツ通し感動を
 先日のJリーグ第5節で、浦和にホームで完敗した。これは、完全に私の見込み違いが一番の問題であった。まさか浦和が、チャレンジャー的に守備からゲームに入ってくるとは、予想だにしていなかったためだ。
 話は変わるが、先日雑誌の企画で、縁あって私が微力ながら応援している電動車いすサッカーのメンバーと対談した。
 電動車いすとは、普通の車いすを操作できないぐらいの重度の障害のある人が使う、指先などでコントローラーを操作して電気で動かすものである。
 その人たちが自分たちでもできるサッカーをと、北米で行われていた「パワーサッカー」をヒントに考え出したのである。そして、それをサッカーの母国英国にまで普及させ、今や電動車いすサッカーのワールドカップ(W杯)を日本で開催しようとしている。
 まだまだルールの統一や資金など数々の問題を抱えているが、必ずや成功すると信じている。
 そのために私もできる限りの協力をしたいと思っている。まずは、少しでも多くの人に電動車いすサッカーを知ってもらいたい。まだまだ、見ていて面白いと言うところまでいっていないが、彼らの目の輝き、真剣さ、一生懸命さには心打たれるものがある。
 私は、スポーツには「感動」が伴わなければならないと思っている。そして、それが今の社会、特に若者の間にはびこっている「うざったいよ」「かったるいよ」と言うような夢を語れない風潮を変えていけるのではないかと思っている。
 私が、子供のころ、野球のグラブが欲しくて父親に頼んでもどうしても買ってもらえなかった。お小遣いをためたり、いろいろ苦労して手に入れたときの喜びは今でも覚えている。
 「感動」とは苦労したり、何かを乗り越えたりしたときに起こるものだと思う。あの時父親が、すぐ買ってくれていたら、うれしかっただろうが感動はなかったと思う。
 社会は豊かになり便利快適になったが、感動することが少なくなり、人間が家畜化してきているのではないだろうか。冷暖房の効いた部屋で、餌が豊富に流れてきて、体まできれいにしてくれる家畜の目は輝いていないように思う。
 そんな中で、スポーツには若者が目標に向かって努力しトライし、時に目を輝かせ「ヤッター」と叫ばさせることができる力があると思っている。
 ぜひ、一人でも多くの人たちが、彼らの感動の手助けをしてほしいと思う。それは、つまり自分が感動することなのだから。
神奈川新聞より)