神奈川新聞連載「ルーキー【上】GK秋元陽太」

 ずぬけた能力を証明するエピソードがある。秋元と同年代の横浜Mユースには、ある”悪癖”があった。相手FWと秋元が1対1になっても、DFが戻らないのだ。GKへのあまりの信頼感のため、DFがピンチをピンチと認識しなくなっていた。
 180センチ。普通なら長身とされる身長だが、秋元自身は大きいと感じたことはない。どこに行っても、ライバルは必ず自分より大きかった。そして「ただでかいだけのGKには負けない」と思った。原点はそこにある。
 昨年、トップチームの練習に参加した秋元を見て、岡田監督は目を丸くした。「うちの選手のシュートが入らない」。U-19代表に選ばれる逸材とはいえ、まだ高校生。プロのシュートの速さ、精度について行けないのが普通だ。だが秋元は、そんな戸惑いをみじんも感じさせなかった。同じくユースからトップに昇格したFWハーフナー・マイクも証言する。「絶対止められないと思ったシュートを、普通に止めてしまう」
 ”お手本”はスペイン代表GKのカシージャスという。中学時代にこのGKのステップを取り入れた。跳ぶ直前に肩で息をするように軽く跳ねてから踏み切ることで、着地の反動を次への動きのバネに変える。「届く範囲が一回り広くなった」と秋元。これを修得し、U-16で初めて日本代表に入った。
 恐怖感とは無縁の果敢な飛び出しは、けがを恐れずに前に出続けることで体に染み込ませた。「いつの間にか足元に来ている」と相手を困惑させる絶妙な間合いの詰め方とともに、すべては体格で劣るというコンプレックスを持ち味に変えるための努力のたまものだ。
 これまで世界大会で2度、ベストGKに輝いた。それでもまだ「パワーをつけないと…」と控えめに話す。だがそんな本人をよそに、岡田監督はルーキーに対して最大級と言える評価を与える。「今季中に試合に出るチャンスを与えてもおかしくないレベル。モノになるよ、あいつは」
 
(神奈川新聞より)